わたち猫なの 9

「わたち憶えてる。すぐに花が咲くように大きなのを植えたんでしょ」
「何しろ和尚様は江戸から下っておいでの方だから、田舎暮らしは初めてで木魚の撥より重いものは持ったことがないって言ってたの。スコップをまともに使ったことがないので、穴掘りひとつ満足にできなかったのよ」
「桜を植えた後、わたちも偵察に行って、そこに住んでいるノラ猫から話を聞いて、ひっくり返って大笑いしちゃったあの話でしょ」主はふふふと笑って
「そうそう、その話よ。今思い出しても可笑しいわ」
 ノラ君、離れたところから和尚様と主が御衣黄桜を植えるところを見ていたんですって。主に「道具は?」と言われて和尚様が持ってきたのは除雪用の四角なアルミのスコップで、それを見た主が、
「バーカじゃないの。それで何するの?」って言ったらこれしかないんですって和尚様が答え、主がうちから剣先スコップを二丁取って来て、やっと本格的な穴掘り作業を開始したっていうわけ。
 和尚様が所化さんをしていた江戸のお寺は、そりゃ大きな寺で専従の庭師を何人も抱えていて、小坊主達が庭をうろうろすると、苔が傷むから入っちゃいかん。あっちへ行けって怒鳴られて、追い払われていたんですって。だからお庭の手入れなんて全くしたことがないのよ。それがスコップで掬った土の塊を遠くへ思い切りよくばら撒くものだから、
「それって何してるわけ?」
「邪魔になるから遠くへ捨てたほうがいいと思って……」
「雪じゃないんだから、木の根を何で埋め戻すのよ」と言われていたんですってね。
 息切れした和尚様が途中からスコップに寄り掛かって見ているものだから、
「あなたは110キロ以上、私は40キロしかない体重で、どうしてあなたが立ってるわけ? あなたが掘って頂戴よ」
「いゃあ、あんまり手際がいいのでついつい見とれてしまいました。やりますやります」とスコップを持って掘りだしたの。