わたち猫なの 10

 それを見た主が、「流石は110キロ以上の体重ね。凄い力だわ」と褒めたの。和尚様ったら褒められてその気になって、勢いよく穴を掘り出したのよね。その途端、土の下に隠れていた石に思い切りスコップが当たってしまい、手首と腕に凄い衝撃が来て、思わずスコップを放り出して両手を振ったんですって。
「石がありますよ。どうしましょう」って和尚様が言ったら、主は、
「周りを掘って取り出せばいいでしょ」って笑いながら言ったのね。気を取り直して掘り進めて行くと何度も盛り土したらしく、赤土や黒土、砂なんかの横縞模様が出てきたので、「あーっ地層だ!」って和尚様、幼稚園児みたいに喜んだんですって。年に関係なく初めての体験は嬉しいもんなのね。
「同じスコップを使っているのに、どうしてこんなに違うんだろう?」和尚様が言うと、主は、「もういいから水を汲んできて頂戴」って言ったのよね。そして、和尚様は墓参用の手桶を両手に持って、水汲み係になったわけ。
 穴掘りを伝授したのはいいけどてんで役に立たないし、このままじゃ日が暮れちゃうわと内心思ったんじゃない?
 主は掘った土を掬い出しながら、
「普通は男が穴を掘って、女が水を汲むって相場が決まってるのに、なにか変じゃない?」って笑いながら文句を言ってたんですって。
 和尚様が巨体を揺すりながら、せっせと水の入った手桶を両手に下げて穴の傍まで運んでは、二人で「もういいですか? 息切れしてきました」「まだまだよ。どこにも足りないわ」という会話を繰り返しながら、作業してたんですってね。11月だっていうのに和尚様は大汗を掻いてふうふう言ってるの。それに引き換え主は涼しい顔していたんですって。流石は血も涙も汗もない女だって評判通りなわけで、わたちも感心しちゃったもん。見ていたノラの話だとまるで漫画の実写版を見物してるみたいだったって言ってたわよ。