わたち猫なの 53

「何? 寺を辞めたい? そうかそうか。あなた本人の希望なら、これは叶えてやらんわけにもいくまい。長い間ご苦労だったな。おーい、住職。ちょっと来てくれ。今帰った総代衆を大至急、全員呼び戻してくれ。住職と俺だけで決めると、また後が五月蝿くて敵わん。すぐに皆に電話してくれんか」
「はいはい、そういたします」
 しまった、失敗したと思って顔色を変える老女中を尻目に和尚様は、帰ったばかりの総代衆を再び寺へ呼び戻したんですって。
 総代長の話を聞かされた総代衆は怪訝な顔をしながらも、本人の希望と言われれば反対する理由も見当たらず、そこで退職が決定してしまったんですって。
 ノラから話を聞いて、わたちはほうっとため息をついて一安心したの。内心、星って当るうぅって、びっくりにゃお。それにしてもなんてあっけない幕切れなのにゃん。ばーかみたいにゃ話ね。

 ある朝、主は何事もなかったように、わたちを膝に乗せ、珈琲カップを前に煙草を咥え、煙を輪にしてぷわーりとひとつ吐き出した。
「お母さんが辛抱強いのは商売柄にゃの? 何にも言わないの?」
「人は、恐ろしい事に忍耐を学ぶように生まれてくるのよ。さあ、お花を入れ替えてくるからお留守番しててね。間もなく時事ニュースだからテレビはつけたままにしておくから、見終わったら消しててね」
 主はそう言うと、尻尾で了解って返事したわたちを床に降ろし、車に花材を積んで出かけていったの。
 出掛けに鰹節をお皿に盛ってくれたのをお腹いっぱい食べたら眠くなっちゃったにゃーん。テレビを見ながら揺り椅子に揺られてお昼寝でもしようっと。

                         完