わたち猫なの 52

 そんな事をしているうちに主が予測したとおり、老女中は3ヵ月後に退職したのよ。手練手管で寺に居座り続けるつもりでいたし、本来ならば雇い主の和尚様が首切りをしなければいけないのに、何しろ和尚様も月と海王星の180度がものを言って人気取り主義全開で生きてるから、とてもおばちゃんに辞めてくれとは言い出せなくていたらしいの。意を決してそれを言ったりすると、彼女の方が何枚も上手で、
「ごめんね。そんなに怒らないで。悪い処はこれから気をつけるからね。若和尚がそう言っても、皆さん方がどうするかしらね。それにここのお寺にはまだまだ若和尚の知らないこともたくさんあるし、嫁さんが来るまでは何かと私が頑張って居れば役に立つでしょ」と言って和尚様の言う事なんか、てんで歯牙にもかけない有様だったらしいの。
 そんな繰り返しに業を煮やした和尚様が何回も総代会に彼女の退職を諮るんだけど、和尚様と総代長の他は6人全員が反対意見で、しかも反対の理由が、何故かはっきりしないんですって。
 これって星のとおりの手練手管の成功例なわけにゃん。

 老女中自身が、裏に回って総代衆に取り入る策が功を奏して、彼女を辞めさせない事に決まった総代会の後で、総代長にお世辞の心算で言った余計な一言が命取りになったんですって。
「皆さんに良くして頂いて、私はほんとに幸せ者ですわ。でも甘えてばかりもいられませんから時期が来たら、いつでもおっしゃって下さいな。私はいつでも引き下がる用意がありますから」総代長、その日は会議の後で補聴器を外していたものだから、老女中の感謝の言葉を、本人が辞めたいっていうふうに聞き取ったんですって。