わたち猫なの 51

「やれやれ、まったく一筋縄ではいかねぇ婆さんだぜ」
 一緒にその様子を見ていたノラが、儀式前のお茶の部屋であった事を話してくれたの。
「お前の飼い主のお弟子方が、忙しくお茶の準備をしている処へ婆さんが帯をずるずると引き摺りながら入って来てさぁ、
『誰か帯を締めて頂戴。あ、そこのあんた、頼むわよ。しっかり締めてよ。着崩れたらみっともないからね』だとさ。
 初めて会ったお前の飼い主のお弟子を捕まえて、よく言うよな。一同一瞬、唖然としてたが、そこはそれ、お師匠の仕込みがいいかして、たちまち綺麗に帯を締めて二重太鼓の出来上がりさ。すると婆さん、
『皆さん。今日は忙しい処、ほんとに御苦労様。しっかり頑張って下さいね。
私はこれからお客様方に御挨拶に出ますから、後はよろしくお願いしますよ』と、きたもんだ。
 お弟子の中に居ただろ。お前の飼い主の友達甲斐と商売を兼ねて手伝いに来ていたお茶屋の社長夫人がさ。彼女がお弟子の一人にこそっと聞いてるんだよ。
『あの方は住職のお母様?』って。そんなわけねぇだろうが。
『この寺のお手伝いさんよ』
『えーっ。あの物腰でてっきり私は住職のお母様だと思ったわ。態度は横柄だし、着物も帯も立派なんですもの。女中ならエプロンでしょうよ』
 おいおい、そっちこそしっかりしてくれよな。寺の大奥様が着物姿となれば半襟に紅絹なんか覗かせないよ。巷の枕芸者じゃあるまいし」
 にゃにゃにゃにゃ~ん。わたち、もう少しで屋根から転げ落ちそうだったわ。