わたち猫なの 4

 主の家にはいろんな個性的な人が出入りしているけれど、このお坊さんはかなり正統な変人らしいことがわたちにもわかってきた。だって「檀家の人々の幸せを願って、真言行者として生きるのだ……。」なーんて言うんだもの。
主と一緒に数々の寺院関係者と出会ったけれど、そんな姿勢を持っている人は初めて見ちゃったの。前の御主人の賀茂の殿様みたいにわたちは透視が出来るから話している相手の心の中が見えちゃうわけで、テレパス七ちゃんだってわたちには負けると思うわ。なにしろ主と調子よく話している人が、心の中では全然違う事を考えているのなんか日常茶飯事なんだもん。主だって、世の中とは大昔からそうしたものなんです。とか言って平然としているし………。
 ふーん。何度か会っているうちに、わたちこの和尚様が好きになっちゃった。
 和尚様がおいでになる時はすぐにわかる。車のエンジン音が独特なのはマフラーが暴走族好みの巨大さを持っているからっていうのも見て確かめたし、何しろ音がまるで戦車みたいなんだもの。わたちの耳は人間の耳には聞こえない音だってちゃーんと聞こえるから、彼が来たらすぐに揺り椅子から飛び降りて玄関まで行って御出迎えすることにしたの。歌手にしたいようないい声で、「ごめんください」と案内を乞われると、わたちは「ようこそいらっしゃいませ」と御挨拶をするの。でも出る声は「にゃ~~ぁん、にゃん」としか人間の耳には聞こえない。でもわかる人にはわかるわけで、和尚様はこう言うの。「これはこれは除霊院様、こんばんはで御座います。御迎え恐れ入ります」って。わたちはダークだけじゃなくて除霊院という立派な生前戒名も持っているのよ。