わたち猫なの 5

 わたちが除霊院暗闇にゃんにゃん大姉という立派な戒名になったのにはわけがあるの。去年の秋のある日の夕方、つまり逢魔ヶ時に訪ねて見えた和尚様に憑物がついていて、不動明王みたいなお顔になっていたことがあったの。ちょうどお稽古を終えたお花のお弟子と同席してお茶を飲み出したので、わたちは二人を眺めてから、おもむろに二人の間に割って入り、和尚様から隣に座っていたお弟子に憑物を移してあげたという事があったの。わたちはこのお弟子がお稽古に来ると、いつも彼女の膝の上に乗ってゴロゴロするのが好きよ。だって安倍晴明様の処へ行った時の事を思い出すんだもの。わたちは彼女を密かに茅蜩の前って名づけてるの。
 賀茂の殿様は猫又だったわたちを呼びつけては「晴明殿に会いに参るぞ」と言うの。わたちは賀茂の殿様の馬代わりになって晴明様の舘まで、足音なしに風のように歩くのよ。晴明様の舘に近づくと、どこからともなく白い蝶が飛んでくるの。そしてふっと蝶が消えるとそこは晴明様の舘の門の前で、蜜虫が立ってわたち達を待っているの。あるかなきかの微笑を浮かべて出迎えてくれるの。蜜虫は晴明様の式神で、色白で瞳の大きな、小袖のよく似合う若い女の姿をしているの。屋敷に入って酒宴が始まると、わたちは元の小さな猫又に戻って蜜虫から干した魚を貰うの。退屈して庭へ降りていくと、夜なのに白い蝶がひらひら飛んでいるの。わたちは面白がって追いかけ回り、蝶を捕らえようとするんだけれど、なかなか上手くいかないの。捕まえたって思ったら、目の前にいるのは蜜虫でわたちを抱き上げて言うのよ。「猫又は悪戯者ね。ほほほ」って。