わたち猫なの 3

 主が出かける時はわたちも一緒に車に乗ってあちこちの風景を楽しむの。主が用を足している間は車の中で待っているのよ。時には何時間も主が車に戻らないこともあるので、そうなると運転席に移動して丸まって瞑想することにしているの。もうすっかり慣れてしまったわ。車が走っている間は、倒してある後ろの座席から主の右肩のシートに両手をかけて外を見るのが好きよ。ガソリンスタンドへ行くと、従業員のお姉さんがわたちを見て「あら、必須のアイテムが乗ってるわ」って言うの。主が魔女だってわかっているのね。そんなわけでわたちは街の様子やどこいらへんに何があるのかをほとんど知っているのよ。

 主の家に訪ねてくる人の中にお坊さんがいるの。初めていらしたときは玄関先で思わず「ハンプティダンプティ塀の上!」って叫んでしまったの。もっとも彼の耳にはにゃおーんとしか聞こえなかったでしょうけどね。
 でも主はわたちに言ったの。「滅多にない美男僧よ」って。だってぇ、転がった方が早いみたいに見える、彼のどこが美男僧よ?? とわたちが異議を唱えると、「いずれ僧侶の鑑になる方よ」って言われて、お坊さんの風姿をよーく見てみたの。なるほど、立派な体格(でも20キロは痩せて欲しいにゃーん)と福々しい顔相、会う人を楽しい気持ちにさせる性格、わたちの主は魔女だからずーっと先の彼の姿を見ているということね。それにしても世の中に美女と野獣っていう古典的な組み合わせはあるけれど、魔女とお坊さんの組み合わせって聞いた事がないにゃ~ん。ヨーロッパなら神父と魔女と異端審問会ってあるけど、ここはマルコポーロも憧れた黄金輝く極東の島国ジパングなんだもの。