わたち猫なの 16

「ふーん、だから和尚様、最近やたら熱心に修法をして行に励んでいたわけなのね。ノラが言ってたんだけど、毎日夕方になると鉦(かね)のチ-ンって透明な音が聞こえるんですって。本堂の廊下の所の破れ穴から縁の下に潜り込んで寒さや風を避けていると始まるんだって言ってたわ。うちの和尚様がいつも本堂で読経してるのは仕事熱心というより、ありゃ閑なんだって言ってたのよ。ノラは教育を受けてないし教養がないから修法の何たるかを知らなくて、閑な和尚様だなんて言ってるのね。修法って真言宗の宗祖、空海が千年以上前にしていた事そのものだなんてノラにはわからなかったんだわ」
「そうよ。千年もの間、少しも変わらず同じ方法を今に保っているの。そうして国と人々の安泰を神仏にお願いしているのよ。いつだったかちょっとした事があった時、彼は私を評して戦国時代に生きてるみたいだって言ったから、私もこう言ってやったの。何言ってるの。私が戦国時代ならあなたは平安時代じゃないの。空海さんと同じ衣を着て同じ修法をしておいでなんでしょ。人の事言えないじゃありませんか。ってね。そうしたら和尚様は、これは参った。おっしゃるとおりでございます。ですって」
「あ、それで二人で時々馬鹿笑いするのね」
 わたちはまだ若いうえに語彙が少なくて、時々二人の会話が意味不明だったりするの。