わたち猫なの 17

 そう言えば主は、「歴史で言うところの200年や500年前はそれほど昔じゃない、今現在の事よ。人なんてそんなに変わってもいないし、進歩も進化もしない代物なんだから…」と言ってたわ。
「明治維新なんて未だに続いているじゃない。近所の105歳のお婆ちゃんが少女の頃に、新撰組の隊員達は各地で生きていたのよ。新撰組二番隊組長だった永倉新八が鬼籍に入ったのだって大正4年だもの。近所のお婆ちゃんはその頃10代の少女だったわけで、今だってぴんぴんしてお庭で草むしりしてるじゃないの。面識はなくとも同時代を生きて、さらに生き続けているわけだから、明治は遠くなりにけりなんて、それは別の視点からの物言いって言っていいんじゃないかしらね」主は時々、わたちを相手にこういう話をしてくれて、聞いているうちにわたちもいろんなことを思い出したりしてしまうの。
 それにしても主は風変わりな趣味人だにゃん。猫のわたちに尻尾ぱたぱたは勿論の事、お手だのお座りだのをさせるんだもの。外へ行くときは戸を開けてくださいにゃーんていうと、主が自動ドアになるし、帰ると只今って言わないと家には入れない。主が戸を開けて必ずわたちを抱っこして足を拭いてくれるの。足を拭かないと家に入れてもらえないの。雨の日なんか腹まで泥だらけになって帰ったわたちが、足拭きを嫌がったりすると、ぎゅっと押さえつけて、肉球の間まで拭きながら、「綺麗好きのダァちゃん、なんて穢い足、穢なし、穢足。これじゃ別部穢麻呂って呼ばれるわよ」ですって。主の脳味噌ってどういうふうに動いているのかしらね。