わたち猫なの 12

 そう言って主はわたちを膝から降ろすと、書斎へ行ってがさごそやってすっかり黄ばんでしまった新聞の切抜きを持ってきて、わたちが膝に跳び乗ると一呼吸入れて、珈琲を飲みながらそれを読んでくれたの。「『目安箱 訴え切々 直訴内容纏めた書類展示』ですって。『旗本から金要求される、わが村の僧侶ひどい』ってね。安政5年の目安箱の投書の中身にこういうのがあったのよ。『わが村の僧侶は出家者とは思えない所業で一同迷惑しています。お調べください』ということは、今も昔も全然変わらないのが世の中だって話だわ。笑ってしまうわね」昔と違って寺社奉行所はないし、目安箱もないから前住職はしたい放題だったっていう事ね。
「前住職には、親に似ない聡明で立派な跡取り息子があって、主と似たぐらいの歳だったんですってね。30代で病死してしまってお気の毒だったわ。男子の孫があったから、後継者の心配はなかったはずなのに、吝嗇が昂じた前住職は息子の嫁を孫ともども寺から放り出してしまったんですって。それからというものは、本堂なんて鼠と蝙蝠の安住の場所。お掃除なんかあちこちしかしなくなったんですってよ」
「そうよ。前に友人の伯母様が亡くなって葬儀の手伝いに行った時、座布団を移動したらばらばらと蝙蝠の糞が散らばり落ちて大騒ぎになったことがあるわ。大至急その場に居合わせた皆でお掃除をしてやっとお葬式に間に合わせたの。あの時は本当にびっくりしたわ」
 ふーん。じゃあノラの言ってるのは全部本当の話だったのね。