わたち猫なの 11

「そうよ。御衣黄桜を植えたから、私はますますそこの佇まいが好きになったの。わかる?」わかるうっ。だってわたちが足を伸ばして散歩した時、本殿の左側の杉木立の下に、古びたお墓がいっぱい並んでいてまるで高野山のミニチュア版みたいだって思ったもん。ノラに聞いたら猛烈古い寺なんですって。ざっと600年以上は経っていて何代目かの悠日様という住職は法力があって、火伏せの達人で、竜神様と仲良しだった伝説の人なんですってね。
 だけど今は見る影もないほどに荒寺と化してしまっているの。伽藍は立派だけど、襖や障子なんか破れて変色してしまっているって言ってたわ。庫裏の横のお庭は手入れしないから、木々の枝振りは見るも無残だし、竹林の地面はごみだらけ。燃えないごみが至るところに散らばってるし、粗大ごみもあちこちに埋められていて、電気釜やファンヒーターが筍みたいに地面から顔を出してるの。ごみ屋敷ならぬごみお寺ね。ウイスキーやお酒の瓶なんかも割れたままになってるの。ノラが危なくってうっかりできないって言ってたわ。
 にゃんでそうなったか聞いてみたのよ。前住職のせいだっていう話だったわ。今は引退して実子の住んでいる遠くの施設で90歳の老体を養っているそうだけど、これがまた権力と横暴を絵に描いたような人なんですって。お金に険しくて寺の檀務費を全部インマイポケットオーライだったらしいの。だからあちこち壊れても修繕はしないし、昔あった寺の門前の杉木立は全部切り倒して売っ払うし、おまけにそこは全部墓地にしてしまったんですって。
 お葬式のお布施が少なかったりすると一周忌の法事は土壇場でキャンセルするし、法事で行った檀家さんの家に洒落た骨董品が飾られていたりすると、有無を言わさず強引に貰ってしまうんですって。とーっても大僧正の位にあるとは思えない方だったんだそうよ。
「そういえば、いつだったかの新聞で読んだ話。確か切抜きがとってあるはず。ちょっと降りて。それを探すから」