わたち猫なの 1

 わたちは猫。名前はダーク。白いのは歯と爪と菊門、それ以外は体中真っ黒な毛で覆われている。鈴のついている真紅の首輪をして、気が向けば雀や鼠を狩りに出かけるのよ。冬は寒いから毛皮をひいた揺り椅子の上に丸くなって昼寝しながら耳だけは周りの音を拾うようにしているの。

 わたちのご主人様は電脳魔女。見たところ若いんだか年寄りなんだか本当の歳がわからない風姿をしている。
 わたちがここへ来たのは2年前の5月、あんまり小さいのでひとりで飲んだり食べたりできないうちだったの。南のお寺の軒下で生まれてまもなく、好奇心から近づいた川に落ちそうになって泣き叫んでいたところを、その寺の若奥さんに助けられてここに貰われてきたっていうわけ。
 主の魔女は手のひらに乗るほど小さなわたちにスポイトでミルクを飲ませて育ててくれたので本当のお母さんになっちゃった。だからわたちは主をお母さんと呼んでいるのよ。
 主の仕事は占星術師で、他にもいろいろな仕事を持っているから七変化の妖かしのような暮らしをしているの。自らも人三化七よっていうぐらいだから、世間の人にはかなりの変人と思われているみたい。わたちにもいろいろ教えてくれたので、昼寝と瞑想を繰り返しているうち、過去世を思い出せるようになったのよ。わたちはエジプトの神殿で神様にお仕えしていたこともあるし、日本で陰陽師の賀茂保憲様に飼われていた時は、尻尾が二股に分かれた式神で、猫又と呼ばれていたの。今生では普通の猫として美しい姿に生まれついてよかったぁと思っているわ。