わたち猫なの 草木塔事始 7
ダーク「そうなの。これじゃほんとに死んじゃうと思ったから、わたちは彼女
の着物の袖を咥えて外に連れ出したの。そして男と弟が木流しをして
いた川の方へ向かって歩いて行ったの。二人が亡くなった梅雨時から
数ヶ月、野山には秋の気配が忍び寄って透明な空気が光るようだった
わ。翌日から女房は毎日わたちを連れて出かけるようになったの。夫
と弟の亡くなった川辺に立ってお祈りをしてたみたい。しばらくする
と、残された仲間と語らってその川辺に小さな石の塔を建てたの。そ
の石には草木国土悉皆成仏って彫ってあったわ」
ホリゾントに長方形の草木塔の影絵。女と猫がお参りしている。
ダーク「彼らは都を追われた人々だから、いつ何時、通報されるか知れないし
追っ手が遣って来て、都へ連れ戻され断罪の憂き目に会うかもしれな
いでしょ。そういうわけだから……。誰かが亡くなっても、立派なお
墓を立てるわけにはいかないのよ。男や弟が埋葬された所には、漬物
に使うような石を目印においてあるばかりなの。いずれは草に埋もれ
て見えなくなるし、女房や仲間が死ねば、そこに誰かのお墓があった
事さえ忘れられてしまうのよね。だから草木国土悉皆成仏なの」
魔女 「もしかしたらそれって、草木塔の嚆矢じゃない? 何故草木塔が建て
られるようになったかという話は、いろいろ研究されているんだけ
ど、まだ確定的なことはわかっていない筈よ」
ダーク「わたちが知ってるのは過去世で、そういうのを見たって話にゃ~ん」