わたち猫なの 草木塔事始 6

ダーク「いつものように木流しに出掛けて行った男と女房の弟がその日家に帰
    らなかったの。日暮れになると判で押したように帰ってくる筈の二人
    が真夜中になっても戻らず、女房は心配の余り一晩中まんじりともし
    なかったみたい。わたちも毎夕二人の帰りを迎えるために座る木の切
    り株に陣取って待っていたんだけど、とうとう朝になっても姿が見え
    なかったのよ」


魔女 「それでどうなったの?」
ダーク「夜が明けてしばらくすると仲間の一人が知らせに来たの。二人の他に
    も仲間が木流しの途中川に沈んで死んでしまったって。木流しの作業
    はいつだって死と隣り合わせの危険なものなの。増水した川の流れに
    浮かべた材木にうまく乗れればいいけれど、一つ間違うと川底に沈ん
    でしまうのよ。川に落ちたら最後、いくらもがいても上にある材木に
    遮られて浮かび上がれなくなってしまうんだもん。二人の変わり果て
    た姿を見た女房は遺体に取りすがって泣き崩れ、半狂乱になって二人
    の名を呼び続けたんだけど、もう手の施しようもなければ他にどうし
    ようもないの。あの嘆く声は今でも忘れられないわ。仲間に助けられ
    て何とか二人を埋葬はしたものの、もうその後は魂の抜け殻みたいに
    なってしまったの。わたちが組紐の錘玉にじゃれて部屋中転がしても
    叱るどころか、わたちを虚ろな顔をしてぼんやりと眺めているだけ」
魔女 「それじゃ女房も死んでしまうじゃない」