わたち猫なの 草木塔事始 5

ダーク「山から木を切り出して川に流してたわ。木を川下の町まで流して、そ
    れを売っていたみたい。だから交渉役の男が里人と話せば、他の人は
    誰とも会わずに済ませられたし、会いたくもなかったわけなの。女達
    は野良仕事の後で、いつも絹糸を束にしては組紐を拵えてたわ」

ホリゾントに組紐台の影絵。糸の玉に猫がじゃれている。

ダーク「女房の隙を狙ってわたちがそれにじゃれようとするのでいつも叱られ
    てたの。だって絹糸は手箱の結び紐や刀の下緒など、それぞれの用途
    に応じて色も鮮やかに染め上げられていたし、鉛の玉の錘に巻かれて
    台に下げられてて、それが揺れるところを見たら、きっとお母さんだ
    ってたまらなくなるわよ」
魔女 「おあいにく様。私は猫じゃありませんよ。そういえばお前、私の組紐
    台でいつも悪さするのは、もしかしたらその時の記憶なの?」
ダーク「実はそうなのにゃ~ん。雨で外に出られない日には、男達は山で採っ
    ておいたアケビ蔓や藤蔓や竹を材料にして、笊や箕なんかの細工物を
    拵えて暮らしの足しにしていたの。わたちが飼われていた家には、里
    人に会う男と女房、それから女房の弟が住んでいてね、時折思い出し
    たように都の思い出話をするくらいで、三人とも無口な暮らしぶりだ
    ったわ。何年かは平穏に暮らしていたある日、とんでもない事件が起
    こったの」

ホリゾントに木流しをしている男の影絵。