わたち猫なの 50

「ふーん。そんなによくわかってしまうの?」
「そうよ。持って生まれた星の配置を超えて生きられるのは一握りの天才だけよ。善かれ悪しかれ、持って生まれた星は必ずものを言うの。ここまでわかればもう、何もいろいろ喋る必要なんかないわぁ。本当にそのとおりなんですもの。
 後は3ヵ月後に星の言うとおりおばちゃんに退職してもらうだけね。退職金はなしね。その時期って金運最低だもの」
「ふーん。そういうものなのにゃん?」
「間もなく晋山式もあることだし、それが終わったらね」
 そうして主は、晋山式に使う会場飾りの花や、茶道具の準備に追われて多忙に過ごし、万端整ったところでその日を迎えたの。
 いい天気でわたちも見物がてらお寺へ足を伸ばしてノラと一緒に築地塀の屋根の上に陣取って、獅子舞や稚児行列、新住職の山門入りを眺めたのよ。
 そりゃ華やかでなかなかの見ものだったわ。
 記念撮影が始まったら、主を始めお茶の人が揃ったところへあのおばちゃんが一緒に並ぼうとしたの。薄い浅黄色の着物に金箔押しの帯を締めて、襟には紅絹が覗いている粋ないでたち。でもなんだか揉めてるみたい。わたちは耳をそちらに向けて聴覚最大にして主とおばちゃんの会話を聞き取ったの。
「お台所の人の撮影だからって写真屋さんに言われたのよ」と、おばちゃん。
「ここはお茶の人達の撮影なの。あなたは後でね」と、主。
「でも入れっていわれたんだからいいのよ。でなきゃ何処で写真に入るのよ」
「よくないの。後で和尚様とツウショットさせてあげるから、そっちへどいててね。和尚様もそう言ってるでしょ。ねぇ和尚様」それに肯く新住職。
 それで彼女はしぶしぶ撮影の列から押し戻され、目を怒らせながら後ろに下がったの。その後、主に手招きされて新住職と二人並んで立った彼女は得意満面でカメラに納まったの。撮影前の和尚様の厭そうな顔ったら………。