わたち猫なの 48

「いゃあ生霊そのものだろ。あの婆さんは死ぬまでこの寺にしがみつくつもりだろうな。80過ぎて給料貰って送迎付きの女中をしてるなんざ、ちょっと世の中にはない話だよ。だから若和尚がお前の飼い主の言いなりになっているように見えるだけで、もう勘弁ならないからいろいろ画策するんだろうよ。嘘と涙は色気を売って生きる上では大きな武器だからな。ところがだよ。あの婆さんの誤算はお前の飼い主を見誤った事だろうな。見掛けは女の格好をしているが、草木供養塔の建立を巡っての行動を眺めてりゃ、やる事なす事男同様で可愛げというものがまるでないからなあ」
「そーんな事はないにゃん。わたちのお母さんは優しいもん」
「そりゃお前にとっちゃそうだろうよ。優しさというものは、それそのものが価値あるもので、それを使っててはいけないのさ。おっと、そうだ、そういえばこの間、総代長が寺へ来て会議の後、世間話をしているのを聞いたんだが、この前の電話事件が話題になってたぜ。おいらも縁の下で聞き耳を立ててよーく聞いてたら、あの電話の女は誰だったんだろう?ってまぁだ気にしてるのさ。そして、総代長の爺様がポロリと言ったのは、家の電話番号は電話帳に載せていないんだがな。だとさ。彼の電話番号は非公開になってるんだとさ」
「それじゃ関係者しか知らないって事じゃないの」
「その通り。あの爺様が新総代長になってそれほど時間が経っていない上、寺の広報に紹介文を載せた時には、住所や電話番号は書き込まなかったから、ほんとに少数の人が知ってるだけの筈だよ」
「それじゃ一般の檀家さんなんか知ってるわけないわよね」
「だからさあ、皆不思議がっているが、何のことはない、獅子身中の虫たぁこの事よって気付かないあたりが、おいらには愉快な話だね」
「でもおばちゃんなら声でわかってしまうじゃない?」