わたち猫なの 42

 主が先生と呼んでいるその御老人は主と和尚様が知り合ったパスタ屋の常連客で、毎晩そこで夕食を摂っているのよ。だから皆パスタ屋仲間って感じなのにね。そもそも主と先生は親子ほども歳が違っていて、パスタ屋の定休日には父と娘のように連れ立って、他所の店へ食事に行ったりしているのに。
 店が閑散とした夜、そこに居るのは滅多に表情を変えないマスターと愛想のいい彼の弟、カウンターでは白いグレートピレネー犬を連れている初老のおじさんがビールを飲んでいて、老先生はテーブルに新聞を広げているの。主がマスターの弟と話しながらその日のディナーに舌鼓を打っていると、和尚様が夜食のテイクアウトにやってくるの。
 車の窓から店の中を覗き込むと、今夜はオールキャストにゃん。まるで新劇の舞台で進行している芝居を見物しているような気分になってしまうにゃ~ん。
 わたちはそれを確かめると主が戻るまで運転席に移動して、丸くなって居眠りしながら待っているの。

「ダーク、パスタ屋へ行ってね。和尚様から聞いた、私が先生の愛人だっていう話をしたら、マスターはじめそこにいる人一同、ゲラゲラと馬鹿笑いよ。どこからそういう発想が出てくるのかわからないってよ。マスターはあのとおり寡黙な人で、滅多に感情を表さないのに、この時ばかりは驚くほど笑ったの」と主は後で教えてくれたの。

 そして和尚様はさらに困った話を続けていた。