わたち猫なの 36

「普通なら怒り心頭で大声で怒鳴り返すとか、出されたお茶茶碗のひとつも投げつけてやりたいところだったろうが、煙草を咥えたぐらいにして平然としたもんだ。辛抱強さってゆうのも芸のうちだって言わんばかりに涼しい顔をしてるんだよ。
 だいたい寺へ寄進を受けるなんぞは、その寺の住職の専権事項と決まったもんだよ。坊さんが寄進を受けて、どこに不都合があるってんだ。役員達が相談を持ち掛けられなかったからといって、それを謝罪させるなんぞ宗教家としての坊さんの立場を否定することだろ。こっちの方が大問題じゃないか。寧ろ、知らぬ他国から単身この寺に入って5年有余、宗教家として精進を重ねた結果が、草木供養塔の御寄進という形になって顕れた事こそ、役員会の連中は賞賛してやるべきだろうよ。ましてお前の飼い主は、この寺の檀家でもなんでもないわけだろ。単にこの寺の勅使門や築地塀の佇まいが好きだってゆうだけの話なんだからさぁ」

 というノラの話を聞いて、わたちは感心してしまったの。学問や教育なんかなくったって、ノラの考えは一般的な社会通念の枠から逸脱する事なく、きちんと筋が通っているんだもの。やっぱり猫って出自や学歴じゃにゃいのね。

 それにしてもわたちの主は、北のお寺の皆さんに嫌われているのねー。
 わたちにはわけがわかんないにゃ~ん。だって、主の人となりなんて、皆さん誰も知らないんだもの。会った事もない知らない人を気に食わないって言うのもよくわからない話じゃにゃあい?