わたち猫なの 34

「実は……。あなたには真に言い難いが、先だっての役員会で揉め事になってしまってなぁ」
「……?」
「今回の御寄進を快く思わない者がおりましてな。いろいろ意見が出た中に、ひとつ、こういう事がありましてな。御寄進を受ける際は、それを受けるかどうか役員会に諮って決定しないのがいかんというので…。今回は住職からの報告がないままに御寄進を受けてしまった事を役員衆に責められましてなぁ」
「………?」
「わしと住職とで、役員衆に謝罪という事で頭を下げたところですわ」

 寺の住職たる者が、壇信徒からの寄進を受けるか否かを役員会に諮って承認を得るなどとは、お前の飼い主には想像を絶する話だろ。

「まずは気分を悪くしないで貰いたいが、あなたの事をいろいろに言う者もおって、工事をやめさせろだの、建ててしまったものを裏庭か墓地の空いている所へ移転させろだのの意見が出ましてな。わしらも困ってしまいましたのじゃ」
「そうでしたの。それでは私の供養塔寄進は御迷惑をお掛けしてしまった……という事でしょうか?」
「いやいや、決してそうではない。そうではないのだが、何しろこの寺では、御寄進を受けた前例がないものでなぁ……」

 おっと、この爺様何を言い出すやら、呆けたか? 御寄進を受けた前例がないどころか、本堂の廊下の欄間には、この寺への寄進者の名札が数え切れないほどびっしり下げられているじゃないか。小さな三尊仏が納められている厨子の扉の内側には、寛保元年高梨何某寄進って金文字で書いてあるのをおいらは知ってるぞ。