わたち猫なの 33

 それじゃやっぱり雰囲気が悪いのは当たり前ってわけだわよねー。ノラの話によると、その後の方が面白かったんですって。わたちの主が帰った後、老女中の入れ替える目の前のお茶を飲みながら待っているのに、いっかな電話の主は現れず、とうとう夕方になってしまったそうなの。その場では、いろいろな世間話なども出たそうだけど、だんだんに皆いらついてきたのに、老女中だけは何故か楽しそうにお茶を勧めてまわるんですって。とうとう辛抱が限界に来たかして、しまいにはあの穏やかさを絵に描いたような和尚様が怒り出したらしいの。立ち上がって怒り狂う和尚様はまるで不動明王の再来のようだったんですって。あんな坊さんの姿は初めて見たってノラが言ってたわ。
 そりゃあそうよね。和尚様にとっては北の寺に入ってこの方、辛い目、ひどい目、厭な目、とんでもない目に駄目の、連続テレビ小説のような日々だった処へ寄進を受けたわけだもの。大喜びしている処へバケツで水を浴びせられるような目にあっているんだから怒って当然、怒らなかったらほとんどバーカじゃないかちらね。
 それにしても名を名乗って総代長の自宅にまで電話したのなら、どうして姿を現さないのかちら、謎? 結局その日は待ち人来たらずで散会になったそうだけど、それってどういう事なのかちら。その後も電話の女はわからずじまいになっているっていうノラの話だったの。
 それから数日後、主が草木供養塔の花の手入れの後、庫裏で珈琲を御馳走になっていたら、総代長がやって来たんですって。その時の様子をノラが見ていて、わたちに教えてくれたの。
 以前主と出会った時とは違って、総代の爺様の態度はいまひとつ変だったんですって。