わたち猫なの 32

 ノラの話によるとやっぱりその集まりの原因はわたちの主だったの。
 中年の女の声で総代長の自宅に電話があったんですって。彼自身がその電話を受けて話を聞いたところによると、その女は北の寺の檀家で何某と名乗り、草木供養塔を寺の境内に建立した事に難色を示し、月曜の午後に寺へ出向いて、それについての話をするという申し入れをしたんですって。
 その電話で驚いた総代長が、和尚様に連絡し電話の主が言う名前を檀家名簿で確認した上、二人で何某と同姓の檀家の組長を訪ねたそうなの。電話の女は、自分が住んでいる町名も言ったらしいから総代長と和尚様は一大事だと思ったらしいのよ。
 ところが不思議な事には、何某と名乗った電話の主に該当する人がいなかったんですって。おまけにその組長さんは自分の牌寺になっている北の寺に草木供養塔が建立された事を全く知らなかったそうなの。
「そんな素晴らしい事をどうして問題視するのかわかりませんな。電話の女性には全然心当たりがないし、同姓の檀家は私の家を含めて三軒だけ、一軒はうちの新家で昨日も会ったがこの話にはならなかったし、知っていれば話さない筈はなし………。もう一軒は寺などに関心のない若い夫婦だし……。いったいどこの誰なんでしょうかな。魔女さんはうちの近所に住んでいて、風変わりと言えばいえるが……。下心どころか心なんかほとんどなさそうな暮らしぶりですよ。ともかく相手が寺へ来ると言っているのだから、待っていて話を聞いてみようじゃありませんか。相手が誰かわからない以上は、待っているしか手はないわけですからな」と組長さんが話を纏めて散会し、月曜日の午後、関係各位が雁首を揃えて、電話の女を待ち構えていた処へ、能天気なわたちの主が行き合わせたという事だったらしいの。