わたち猫なの 31

「それがねぇ。変な話なのよ。寺の玄関で挨拶して水を貰おうとしたら数人のお客さんがいてね、私の方をいっせいにジロリと見るのよ。どうやら総代長はじめ、役員さん達が集まっていたようだったわ。何だか深刻そうな様子で、どーも悪い空気が流れてるみたいだったわ。私は朗らかに声を掛けて、女中の婆ちゃんから水を貰って供養塔の花器に注ぎ足したんだけど、容器を返しに戻ってもなーんだか難しそうな雰囲気なのよ。でも私には関係ないからそのまま帰ってきたんだけど、厭な感じだったわ」
「もしかすると、その集まりってお母さんに関係あるんじゃないの?」
「まさかぁ。私があの寺の役員衆の誰かに快く思われていないってのは知ってるけど、今回の件は他の人には無関係だし、第一私はそれらのメンバーに知り合いはいないもの。単純に寺の問題で集まっているだけの話だと思うのよ。でも何か変な感じだったわ。開いている障子の向こうに座っている役員らしき老人がこちらに身を乗り出してジロリと見るのよ。お前何の用で来たんだ。間の悪い時だっていうのに……。という感じなの」
わたちは、やっぱりそれって主に関係のある話に違いないって思ったので、夜の闇に紛れ込んでこっそり寺へ行ってみたの。
 ノラが何か知っていたら詳しく教えてくれるに違いないもの。寺に関する事でノラの知らない話なんか全くないって言っていいぐらい、古くからそこに棲みついているんだもん。