わたち猫なの 30

 ノラの話では、最初の工事のときに草木塔の御寄進を受ける話を聞いて大喜びした総代長は、誰かにそれを話したくてたまらなくなったらしいの。家族は勿論、懐刀にしている役員の誰かにその話をしたらしいの。相手も喜んでくれると思って話したのに、意外に冷たい反応で、この不景気な当節、寺へ寄進するというのは何か下心でもあるに違いないって言ったみたい。それが証拠に住職が我々に対して、事前に何の相談もしなかったではないかって。わたちの主を頭っから信用していないみたいね。そう言われると80年も生きているのに、何だか相手の言う事が正しいような気分になったんじゃないかしら。気分というものの前には、数々の経験や理屈や見識、高学歴も思いの他に無力なものなのねぇ。にゃぁああ。
「ふーむ。言われてみればそれも一理ある。第一あれほどわしを頼りきってる住職が、このわしに一言の相談もなしに黙って事を進めたという事だ………。あの女狐にうまく丸め込まれているのかも知れんなぁ………。ふーむ。これは問題だぞ」
なーんて具合に考え込んでしまったんじゃないかちら。

 何でかはわからないけど、そんな話を聞いた数日後の月曜日の午後、草木供養塔の手入れから帰宅した時、「どーもわからないわ」と呟くように主が言ったのを聞き咎めたわたちは、主の膝の上に飛び乗ってにゃーぁ? と猫なで声を出して聞いてみた。主はわたちの背中を撫でてから、わたちの自慢の髭をつんつんと引っ張ったの。痛いにゃーぁあん。と抗議すると、ごめんごめんと言いながら、今度は莨の煙をぷうっと吹きかけてきたの。煙いにゃーん。