わたち猫なの 28

「玄関に出てきた和尚様と通いの老女中は二人して、どう見ても魔女の後姿は20代だよねーと口々に言ってるのを聞いて、オイラも思わず転げて笑ってしまったよ」
 そういうわけだったのね。それでせっせと花店の作業台の上で、切り分けた竹を細工していたってわけね。竹筒を作ってその中に経典を納めようってわけなの。蓋の部分がなかなかうまく出来なくて四苦八苦していたけれど、同じ竹の細い部分を短くして嵌め込むようにしたの。緑滴る青竹で一見したところ、利休の花活けみたいに拵えあげたのよ。主はそれを居間のテーブルに置いて、ゆっくり乾かしながら眺めていて、時々にやっと笑ったりするの。
「ねぇねぇ、お母さん。そんな不気味な笑い方しないでおやつの鰹節を頂戴ニャーン」と言うと椅子から立ち上がって台所へ行き、
「おねだりするのね。じゃあおすわり。上手。お手は?」わたちは前足を主の手のひらに乗せて神妙な顔をするの。もう片方の足も手に乗せてにゃーんと言うと、主は焼津産と書かれた大きな袋から、材木を鉋で削ったような鉋屑紛いのひらひらした鰹節を取り出して、お皿に入れてくれるの。これが美味なのよう。
 天下一品の味わい。わたちの大好物なのよ。秋刀魚なんかとは比べ物にならない美味しさよ。主はわたちが食べるのを見て、こんな乾いたのを食べてよく上顎の裏に張り付かないのかしら? と不思議がるけど、わたちは平気よ。鰹節のためならお座りとお手ぐらいお安い御用だわ。