わたち猫なの 26

 へぇーそうだったの。
「間もなく犯人が捕まって、中国人の犯行だってわかったのはいいけれど、それを手引きしたのは老僧の親戚の娘だった事も知れてしまったの。流しの強盗なんかじゃなくて計画的な内部犯行だったのよ。しばらく町中の話題になっていたわ」にゃんということかちら。だからノラが言ってたのね。本来あるべき寺務費が一銭もないのは、老僧がねこばばしたからで、役員一同が困り果てているって。でも猫糞だなんて迷惑な話。そういうの着服って言うんでしょ。
 それって法律的には横領罪が成立するんだけど、まさか自分のところの前住職を提訴するのも前代未聞のことだし、第一、天下に由緒ある寺の恥を晒すような事は出来ないもんね。外からはわからないのが世の常なのにゃん。そんなことになったら、新聞の見出しにはきっとこう載るわ。
  (古刹の住職 寺務費横領の罪で起訴される)
「やっぱりまずいよねー。お母さん」
「そうねぇ。少なくとも美しい話とは言えませんねぇ」
そんな話をしていると石工から電話で次の工事には、石の加工が予定どおりの日に間に合いそうだって言ってきたの。そうして、カロートの奥に梵字か花でも主の好きなものを彫ってあげましょうか? って言ったみたい。
 それって塔の前机を動かして、穴の中に経典を納める時にちらっと見えるだけで、草木供養塔って人のお墓じゃないから、たった一回だけしか人目に触れることはないんじゃないの?