わたち猫なの 23

 しばらくするとその場所に丁度良い広さの地面が出てきたの。帰る頃には余りの天気の良さに主の顔が日焼けというか、雪焼けというかわからないけど赤くなっているように見えたので、
「お母さん、顔が黒くなってるにゃん」と言うと、
「私の色黒はタンザニァって定評があるの。ということはタンザニァ度が上がったっていう事ね。どーせ鏡なんか見ないから何の問題もないわ。自分の顔は直接的には片目でないと鼻の頭しか見えないもの。他の人が見るだけでしょ。人の事なんか構っちゃいられないわ」にゃーんて脳天気なことを言ってお家に帰ると、お風呂に入って平家物語の経正都落なんかを口ずさみながら、気持ちよさそうにしてるから、わたちもお風呂場に行って、浴槽の縁に上がって、湯船からお湯を飲んだの。主ったら、わたちを風呂場の妖怪『垢舐め』になる段取りなの? と揶揄うのよ。まさかね。天気が良くても冬だから体が冷えてたので、お風呂で温まったっていうわけ。
 そして工事予定の翌日も好天に恵まれて、冬とは思えない暖かさだったの。
雪を予め掘ってあったから、簡単に工事が進んだみたいだったわ。夕方帰宅した主は、超御機嫌だったの。寺で偶然、総代長さんにお会いしたんですって。
 総代長さんは80歳を超えた老人で、世襲制度が廃止されて初めての総代長なんですって。それまでは檀家の総代長は、当地の代官だった家の主人が、代々世襲で勤める寺法になっていたんですって。つい最近までそうしていたのが、子孫が絶えて続けられなくなり、やむなく合議で選ばれたっていう話みたい。
 主は、本来ならば先に御挨拶申し上げるべきところですが、と草木塔寄進の件について話すと、驚くやら喜ぶやらで相手は大感激だったんですって。