わたち猫なの 21

 この間洗面所で長い髪の根元をせっせと白髪染めしていたのを見てたもーん。やっぱり人って自分に近いものが好きなんじゃないかしら。シュールレアリスムの詩人ロートレアモンだって、自作の詩集マルドロールの歌の中に、「僕は僕自身に似た魂を探していた」って書いてるにゃん。わたちは若いから白髪なんかないし、髭だって真っ黒だもん。
 それにしても外は寒い。猛烈な吹雪になっちゃって、時には視界ゼロメートルになるの。茶の間のガラス戸越しに外を眺めていると、お庭の向こう10メートル先のアパートの壁が一瞬全く見えなくなってしまう。こんな季節に草木塔を建てるって発想は普通の人はしないんじゃないかしら。主の膝に乗ってた時、どーしてこんな時期なの? と聞いてみたら、
「老少不定、人は明日をも知れないのよ。アシタニハ紅顔アリテ 夕ベニハ白骨ノミゾ残レリ 哀レト言フモナカナカニ愚カナリって聞いたことあるでしょ。蓮如上人がそう言っているんだからね。思い立ったが吉日って諺どおりにする事にしたのよ」ふーん。そういえば、ここの家の玄関の壁には河鍋暁斎の小さな絵があって、タイトルは骸骨の茶会って入ったような気がする。真ん中にある蓮華の釜に湯を沸かして三体の骸骨が茶の湯をしている絵なの。主は河鍋暁斎の大ファンで、蕨にある河鍋暁斎記念館を訪ねたとき、ミュージアムショップでレプリカを求めたんだって言ってたっけ。煙草が吸えて紅茶が出てくる美術館って超私向きよ。日本広しと言えども、こんな気の利いた場所は他にないんじゃないかしらねって言ってたっけ。