わたち猫なの 20

 すると石工は「今は冬だし、雪も多くて季節が悪いから春になったら仕事にかかりましょう」とでも言ったらしい。
「雪? 大丈夫。今年は暖冬だし、もし積もっていたら雪を掘ればいいだけの話でしょ。私は早くそれを建立したいの。大至急図面を送って頂戴」
「…………。図面はすぐに送りますが、誰が雪を掘るんです?」
「私よ」
「まさか。あなたにそんな事はさせらんないっす」
「御存知のように私はヒステリー魔女なの。するって言った以上は将棋じゃないんだから待ったはなしよ」受話器の向こうから石工の豪快な笑い声が漏れてきたの。親の代からの付き合いなので双方勝手な掛け合いをしているあたりは漫画みたいよ。石工は主のわがままに驚いたかして、本当に大至急の速さで図面を主のパソコンに送信してきたらしいの。
 書棚の上に上って主のパソコンを覗き込むと洒落た形の塔と石の花器が写っていたのよ。タイトルは最終図面ってなっていたからわたちの知らない間に、何度か修正を加えていたのね。主はそれをプリントアウトして和尚様に渡したの。彼は大喜びで、「ひたすら有難く、坊さん冥利の一言で御座います」と言っていたわ。
 その後の主はやたら御機嫌で平家物語の実盛なんかを口ずさんだりしてるの。
 ~身を煌びやかなる物具に装いて 白き髪をば墨にて染めて 肝据えて
  ただ独り 戦の陣に臨みしはぁ~
それってそのまんま主のことじゃないの?