わたち猫なの 19

 米沢藩上杉家が貧乏した時に、武士の身分を捨てて帰農した人々が山林を伐り出して農地を開拓し、伐り倒した草木を供養するために建立されたんですって。
 だから、木流しをしていた土地には大抵草木塔が建てられていて、天竜川や木曽川の周辺にも建っているらしいの。いかにも木の家に住み稲を育てて生きてきた日本人の信仰の形らしいなあって感じるわ。石の文化を持つ人にはない感覚だもんね。自然界の全てに精霊が宿るという考えは、日本人にとっては遺伝子の中にしっかり受け継がれていて、行楽といえば春は桜、秋は紅葉って馬鹿の一つ覚えみたいに定番化してるものね。
 草木塔の形っていえば、ほとんどが細長い石柱か、ごろりとした自然石に草木塔って彫ってあるのが普通なんだけど、わたちの主は変人ながら高い美意識を誇っているから、きっと在り来りの形のものは造らないような気がするわ。と思っていたらやっぱり………ね。石工と電話で話しているのを聞いていたら、五輪塔の型って言ってるにゃん。石工の方はそういう形の草木塔は聞いた事がないって言ってるの。やっぱり主の発想は奇抜なのニャ~ン。
 主は「私の好きな形がどうしていけないの? 他所は関係ないわ。ただの石を立てるなんて考えた事もないし、そういうのがなかったら、あるようにすればいいだけでしょう。その隣に石で立華瓶を拵えて欲しいの」
「立華瓶? つまり花器? ですか?」
「そうよ。そこにお花を立てられるようにしたいの」