わたち猫なの 18

 でも人使いの荒い賀茂の殿様より、よっぽど主の方が可愛いところがある。時々腹ばいになって、何をしているかと思えば、猫の視点の高さの研究をしたりしている。わたちは身軽だもの、木登りだって上手だし、いろんなところに登れるにゃん。何時だったかは、玄関前の大きな煙の木に登って二階のベランダから、おうちに入れて頂戴ニャーンって言った事もあるのに、すっかり忘れてるみたい。わたちの方が主よりはるかに見える範囲は広いってわかっていないのかちら。主はわたちと鬼ごっこをしたりボクシングをしたりして遊んでくれるの。後ろ足でミーアキャットみたいに立ち上がって猫パンチを繰り出すと主は年甲斐もなく本気になったりもするの。わたちもつい爪を出したりすると、この卑怯者って怒るのよ。まともにやって勝てるはずないもん、必殺技は使わなきゃあね。
 気楽な暮らしだけど、小さい時に足を拭かないで家に入ったら、こっ酷く怒られて、言うこと聞かないんなら、お前の生まれた寺へ返してやるからっ。と言われた時は、本当にそうなったらどうしようと思ってドキドキしたわ。
 寺の若奥さんがお稽古に来た時、襖の陰で立ち聞きしていたら、その話を聞いた彼女が「寺に帰されても困りますわ」と断ってくれたので、ほうっと胸を撫で下ろしたの。何しろ主は言行一致の好きな人だからわたちがドキドキするのも当然なの。
 その主が草木塔を建立するっていうんだから、一体どんなものができるのか、わたちは興味津々だったの。草木塔って日本全国にあるらしいけど、そのうちの90パーセントが東北地方、それも山形県に集中しているんですって。しかも米沢藩の領地内に多く建立されていて、この地方特有の文化とも言われているって、どこかの大学教授が研究していたみたいよ。